近江商人の「三方よし」の考え方にみる、私たち人間の根性

  皆さんは、「三方よし」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?この言葉は、江戸時代から明治期に活躍した近江商人が大切にした商売の考え方です。「三方よし」とは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことで、売り手と買い手が満足し、さらには社会にも貢献できるというのが良い商売であるという意味です。
 現在の滋賀県である近江は、浄土真宗の盛んな地で、近江商人も真宗門徒が多かったそうです。今では日本を代表する会社となった伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛も近江商人の一人であり、熱心な念仏者でありました。
 伊藤氏の信条は「商売は菩薩(ボサツ)の業(ゴウ)」というもので、店員には、「三方よし」の実践や「商売で嘘をつくな」ということを徹底したそうです。また、店員全員に「正信偈」の本やお念珠をあたえ、朝夕は店内のお仏壇の前でお勤めをし、法話会をたびたび開催し、店員のみならず、得意先の方や知人も招待していたそうです。
 ここまで聞くと、「三方よし」の考え方とは、現代にも通じるすばらしい考え方だと思うとともに、仏教の教えに由来していることを推測します。確かにそのとおりですが、もう一つ忘れてはならない大切なことがあります。それは、この「三方よし」という言葉が、あくまで経営理念であると言うことです。
 理念というのは、どこでもそうだと思いますが、実現することがなかなか困難であるからこそ理念としてあります。実現することが容易であるならば、わざわざ理念として掲げる必要はありません。では、なぜ、「三方よし」を実現することが難しいのでしょうか?私は、そこに近江商人がこの考え方を大切にしてきた本質があると思います。
 それは、我々人間は、自分勝手に、自分の都合のよいようにしか考えられないという根性を持つ存在であるからです。その我々の根性をお念仏の教えをとおして、聞き続けてきた風土があったからこそ、近江の地につねに肝に銘じて商売する「三方よし」という理念は誕生したのではないか?そんなふうに思えてなりません。


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