生きるうえにおいて避けて通れない苦悩を活力に転換していく道~仏道~

『失ったものを数えるな。残っているものを最大限に生かせ』

という言葉があります。この言葉は、障害者スポーツの父と言われるルートヴィヒ・グットマン博士が残した言葉であります。

 グットマン博士は、障害者の治療にスポーツを取り入れ、身体機能の強化と回復で高い成果を上げた医師であります。当時、日本で障害者とは「保護されるべき人」であり、ベッドで安静にしているもの、という考え方が常識だった時代です。その時代に、イギリスへ留学した日本人医師・中村裕氏は、このグットマン博士の理念に衝撃を受けました。博士のプログラムを受けた多くの患者は半年ほどで社会復帰を果たし、自分たちの生活へと戻っていく。その生き生きとした表情は、人目を避けて暮らしがちな日本の障害者とはまるで違っていました。

 中村医師は帰国後、障害者にスポーツなんてと反対する人たちを説得し、1964年、悲願だった東京での障害者スポーツ世界大会の開催を実現しました。この大会の開催は、日本の障害者へ大きな影響を与えました。出場した欧米の障害者アスリートの多くは、仕事や家庭を持ち人生を楽しんでいる。その姿を目の当たりにした日本人選手から、「自分たちも彼らのように自立したい」という声が上がったのです。これがきっかけとなり、日本での障害者スポーツ協会の発足につながっていきます。

 人生においては、かけがえのないものを失い、もう元にはもどれないと知りながらも忘れられず、追い求めずにはおられないという状況に出くわすかもしれない。しかし、そのような悲しみ苦しみをとおしてこそ見えてくるものがある。それは、すでに自分にあたえられているものへの感謝であり、その思いに報いんがためという希望や活力である。

 誰もが苦悩・苦労はいやだ!だけれども生きるうえにおいて避けて通れない苦悩を、希望や活力に転換していく道が存在する。その道を仏道というのだと思います。

 ルートヴィヒ・グットマン博士の残された言葉は、仏教用語を使っていいなくとも、仏道と共通する道を私たちに示してくれているように思います。

皆福寺

創建800年 皆福寺 それは、 先人の記憶・思い・願いをとどめる場所 そして、その場所は、 今を生きる私たちの活力を得る場となる ~月に一度は、お寺で心の洗濯を!~